前歯を下げたいのに、奥歯が前へ動く(症例発表・写真4点)
2026年9月30日
院内の症例検討会で、矯正を担当する川中が発表した内容から、ご説明しておきたい話がひとつありました。
矯正のご相談で最も多いご希望は「前歯を引っ込めたい」です。ところが実際に力をかけると、引っ張った側だけでなく、引っ張られる側も動きます。
この当たり前の物理が、矯正の仕上がりを分けます。今回はその話と、対策として使われる小さなネジについてまとめます。
前歯を下げると、奥歯が前に出てくる
ワイヤー矯正では、前歯を後ろに下げるとき、奥歯を支点にして引きます。ゴムやバネで前歯を引っ張るわけです。
このとき、支点にしている奥歯にも同じ大きさの力が反対向きにかかります。奥歯は骨に固定されているわけではなく、歯根膜という組織に支えられているだけなので、力を受ければ前に動きます。
結果として、前歯は下がりきらず、奥歯は前に出る。抜歯でつくった隙間が、望んでいた方向とは違う形で埋まってしまいます。矯正ではこれを固定源の喪失と呼びます。

上:歯を支点にすると、反作用で奥歯が前に動きます/下:骨を支点にすると、その反作用が起きません
支点を、歯ではなく骨からとる
そこで使われるのが、顎の骨に直接埋める小さなネジです。歯科矯正用アンカースクリューといい、直径は2ミリに満たない大きさです。
これを支点にすると、力を受けるのは骨です。骨は歯のようには動きません。前歯を下げても、奥歯は元の位置にとどまります。
さらに、引く方向を自由に設定できるという利点があります。歯と歯の間で引く限り、力の向きは歯の並びに縛られます。骨から引けば、後ろに下げながら同時に押し込むといった動かし方も設計できます。前歯が出ていて、かつ歯ぐきが見えやすい方の場合、この二方向の制御が意味を持ちます。

治療途中の口腔内。上の前歯の上に見える2つの銀色の点がアンカースクリューです
埋める位置で、負担が変わります
発表で時間を割いていたのは、装置の性能ではなく埋める場所の選び方でした。
歯ぐきには、硬く歯に張りついている部分と、頬の内側へ続く動く部分があります。動く部分に埋めると、粘膜が擦れて痛みが出やすく、ネジが埋もれてしまうこともあります。硬い部分を選ぶ理由はここにあります。
また、ネジの頭にゴムをかけると、頭の縁が粘膜に食い込むことがあります。頭のまわりを詰め物の材料で覆って高さを出しておくと、これを避けられます。器具の使い方ではなく、患者様の口の中で起きることへの対処です。

設計は、撮影の段階から始まっています
埋める場所は、歯の根と根のあいだです。この隙間は場所によって広さが違い、狭いところに埋めれば根に当たります。
そこでCTを撮り、根の間隔を測ってから位置を決めます。撮影時に唇と歯のあいだに綿のロールを挟んでおくと、粘膜の厚みが画像上で分かるという工夫も紹介されていました。撮り方そのものが設計の一部になっています。
ここまで準備しても、ネジが緩んで外れることはあります。その場合は位置を変えて入れ直します。起こりうる前提で計画しておくことが、結果として治療の遅れを小さくします。
よくあるご質問
Q. 骨にネジを埋めると聞くと、大がかりに感じます
局所麻酔をして、数分で終わる処置です。切開して縫うことは通常ありません。当日から普段どおりお過ごしいただけます。ただし、ご不安が強い場合は無理に進めません。他の方法との比較を含めてご説明します。
Q. 治療が終わったあと、ネジはどうなりますか
役目を終えた時点で外します。埋めたままにはしません。外したあとの穴は自然にふさがります。
Q. 誰にでも必要な処置ですか
いいえ。奥歯が前に動いても差し支えない計画であれば必要ありません。前歯をどれだけ下げたいか、抜歯をするか、骨の状態はどうかによって判断します。使わずに済むならそのほうがよい、という順番で考えます。
Q. 東予から通っています。処置のたびに来院が必要ですか
埋入は1回で終わります。以降は通常の調整と同じ間隔です。遠方の方は、調整の間隔をあらかじめご相談のうえ決めています。

同じ方の、その後の状態。掲載についてご本人の同意をいただいています。1例であり、経過には個人差があります
動かしたい歯より、動かしたくない歯
矯正の計画で難しいのは、どの歯を動かすかよりも、どの歯を動かさずにおくかのほうです。
前歯の位置は、患者様が鏡で見て気にされる部分です。一方、奥歯が数ミリ前に出たことに気づく方はほとんどいません。しかし噛み合わせの結果は、そちらで決まっています。
見えないところをどう抑えるか。矯正の相談を受けるときは、そこをご説明するようにしています。
この治療は自由診療です(保険適用外)
標準的な費用:インビザライン ライトプラン 片顎385,000円/上下550,000円(税込)、スタンダードプラン 上下715,000円(税込)、エキスパートパッケージ 上下913,000円〜946,000円(税込)、ワイヤー矯正 上下946,000円(税込)。調整料は別途1回3,300円(税込)。相談料・検査診断料・保定料は0円です。
治療期間・回数:ライトプラン約3か月半、スタンダードプラン約6か月、本格矯正は1〜3年が目安です。遠隔チェックの利用で通院は3〜4か月に1回まで減らせる場合があります。
リスク・副作用:装置装着後の痛みや違和感、歯根の吸収、歯ぐきの退縮が生じることがあります。マウスピース型矯正装置は決められた装着時間を守らないと計画どおりに進みません。治療後に後戻りが起こることがあるため、保定装置の使用が必要です。
費用は2026年8月時点のものです。治療結果には個人差があります。詳細は診察時にご説明いたします。
この記事の監修者
鎌倉 聡
愛媛インプラントクリニック かまくら歯科 院長/歯科医師
日本口腔インプラント学会 専門医、ICOI国際インプラント学会 専門医・指導医、日本歯周病学会 歯周病専門医
最終監修日:2026年9月10日












